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広島高等裁判所 平成3年(う)99号 判決 1991年12月24日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人西本克命、同山崎照夫連名作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官弘津英輔作成の答弁書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

論旨は、原判決は、被告人が妻の濵田悦子と共謀のうえ、本件犯行を行った旨認定しているが、本件は右悦子の単独犯行であり、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのである。

そこで、所論に鑑み記録を調査して検討するに、原判決挙示の証拠によれば、原判決の罪となるべき事実を十分に認めることができ、当審における事実取調べの結果によっても右認定を左右しない。

なお、所論に即して、若干補足して説明する。

所論は、原判決が有罪の証拠とした濵田悦子の検察官に対する供述調書二通は、これらが作成された平成元年一一月三〇日当時は、夫婦仲も悪く離婚寸前の状態であったので、悦子が自己の刑事責任を軽減もしくは回避しようとして、被告人に本件の責任を被せたものであるから、前記各調書の信用性はないというのである。

そこで、記録を調査して検討するに、前記各調書における悦子の供述内容を見てみると、昭和六二年九月ころに、従来「浜田塗装工業」の名で被告人が個人で建設業の許可を受けて経営していた塗装業を、法人組織に変えたうえで建設業の許可を受ける必要が生じた事情、右法人への組織替えをするについては、専任技術者を近い将来服役することが確実になっている被告人以外の者に求める必要があったこと、そこで、被告人と悦子がその対策を相談した結果、悦子が被告人の指示により、有資格者を探して、その名義を借りたうえ、許可の手続をすることになったこと、河本猛から名義を借りることができたため、このことを悦子が被告人に報告し、二人で河本方にお礼の挨拶に行ったこと、その後、三輪司法書士に依頼して許可申請手続をしてもらったこと等を具体的、詳細に述べており、これら供述内容は合理的で十分納得できるものである。また、悦子は右調書において、被告人が逮捕されたことから徳山市からの受注が止まり窮地に陥っているので、被告人の罪を自分が一身に被ってもよいと思っているから、被告人を許してやってもらいたい、何とか罰金ですませてやって欲しい旨懇願しているのであって、所論のような動機から被告人に責任を転嫁しようとしている節など全く窺われず、むしろその逆であること、さらに、右供述内容は関係者の証言内容その他の関係証拠とも合致していること等に照らして十分信用できる。

もっとも、悦子の原審における証言によると、本件は、被告人と相談してしたものではなく、被告人が刑務所に行くと自分や子供の生活が困るという理由もあって、自分だけの考えで三輪司法書士に相談してしたことで被告人は全く関係していない。有限会社浜田塗装工業は専任技術者として河本猛を実際に雇い入れたもので、単に資格だけを借りたというのではない旨供述している。

しかし、右の供述は、前記悦子の検察官に対する各供述調書の記載内容及び原審における証人三輪進二、同河本猛の各証言内容に照らし到底信用できない。

次に、所論は、被告人の司法警察員(平成元年一一月一六日付、同月一七日付、同月二〇日付、同月二一日付、同月二二日付、同月二四日付、同月二八日付)及び検察官(同月二七日付)に対する各供述調書は、当時体調不良の状態が続いており、一日も早く釈放されて病気の治療をしたいと考える一方、妻が罪責を被告人に被せるという中で自暴自棄となり作成されたものであるから、いずれも任意性がなく、信用性もないというので、検討する。

なるほど、被告人は原審及び当審公判廷において所論に沿うような供述をしているのであるが、妻が被告人に罪責を被せるうんぬんという点については、その理由のないこと既に説示したとおりである。また、被告人の司法警察員に対する平成元年一一月一七日付供述調書は、同意書面として取り調べがなされていることは記録上明らかである。

そこで、被告人に対する取り調べ状況及び被告人の供述経過等について、警察で当初より被告人の取り調べを担当した蔵本照夫の原審における証言を見てみるに、被告人は、同月一六日午前七時三〇分ころ、自宅から徳山警察署に任意同行され、本件被疑事実については右蔵本から事情聴取を受け、同日午後四時三〇分ころ通常逮捕されたこと、その間、被告人は本件犯行の動機及び妻に指示してこれを実行させたことについて概略自白し、細かいことについては妻がやっているので妻に聞いてもらえば分かると述べていたこと、同日の取り調べを含めその後の取り調べにおいても、遅くとも午後七時ころには取り調べを終えており、被告人の体調を悪化させるような無理な取り調べは行われていないこと等が右証言により認められるのであり、その他被告人の前記捜査官に対する各供述調書の内容を見ても格別不自然、不合理な点もなく、他の関係証拠と比較しても矛盾はないのであって、自白の任意性に疑いを抱かせるような節は窺えず、また、その内容は十分に信用できる。以上の次第で、論旨は理由がない。

なお、原判決は、法令の適用において、昭和六二年法律第六九号による改正前の建設業法四八条も適用しているが、これは行為者とともに法人を処罰するときの規定であるから、本件の場合に適用すべきものではないが、右適用の誤りは判決に影響を及ぼすものとはならない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

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